2016年6月2日(木)〜6月5日(日)に東京、コットン・クラブにて、ドラマー、ビル・スチュワート(Bill Stewart)の来日公演にうかがいました。オルガンのラリー・ゴールディングス(Larry Goldings)、ギターのピーター・バーンスタイン(Peter Bernstein)とのトリオです。
このグループは90年代からセッションを重ねてグループに発展したそうで、『Live At Smalls』(2011年)、『Ramshackle Serenade』(2014年)などの名盤も記憶に新しいところですね。筆者が知る限りでも15年を超える“お互いを完璧に知り尽くしたアンサンブル”が、とにかく圧巻でした! ビルの演奏はやはり、どこを聴いても“ビル・スチュワート節”が満載で、ファンとしてはたまらない公演でした。
ビル・スチュワートとカノウプスとのつき合いはもう20年近くになります。
かつてのカノウプスとして2番目となる店舗のあった下高井戸は、新宿、渋谷から30〜40分かかる距離です。微妙に中心部から離れているため、来日したミュージシャンが自ら訪れることは、ほとんどありませんでした。しかし、ビルは1人で、リズム&ドラム・マガジンの広告を片手に突然店舗に現れたのです。
当時のカノウプスは、ドラム・メーカーというよりは、まだ“いちドラム・ショップ”でしかなかったのですが、希少なヴィンテージ・ドラムやオールド・シンバルを持っていることで、国内はもとより、海外でも名前を知られていたことが、ビルをしてカノウプスを訪問させた理由です。
オールド・グレッチを物色しながら、しばらくの間ヴィンテージ談義に花を咲かせましたが、話しが進むうちに、彼が1950年代の3プライ・シェルのグレッチが好きであることを突き止めました。このとき密かに「いつかビルがヴィンテージではなく、カノウプスが作った1950年代グレッチ・ドラムの再現モデルを認めさせる」と心に決めました。
ほどなくして、当時、新進気鋭のジャズ・ドラマーであるビルから、「14”×8”の“ザ・メイプル(The Maple)”スネア・ドラムを購入する」と言われたときは、彼のテイストの一部でも満たせるドラムをカノウプスは、作っているんだなと感じ、本当に嬉しかったのを覚えています。
しかしながら、若干高音が気になるとのことで、その場で、サンディング・ペーパーでエッジを丸めると気に入ってくれました。
ビルは、私たちが、“世界のトップ・ドラマーが目指しているドラムの音”を探し当てられる耳持っているという自負を持たせてくれた最初のドラマーなんです。
彼が購入を決めたザ・メイプルには、まだ試作段階であったヴィンテージ・スネア・ワイヤー(Vintage Snare Wire)が取りつけてありましたので、それを外して他社のワイヤーをつけようとしたとき、ビルから“待った!”がかかりました。
彼は、ザ・メイプルとプロトタイプのヴィンテージ・スネア・ワイヤーのコンビネーションが気に入っていたのです。
どうしても欲しいと譲らないため、サンプルの1本を渡すことになりました。彼は、発売前のヴィンテージ・スネア・ワイヤーの音に聴き惚れ、カノウプスで初めてのヴィンテージ・スネア・ワイヤーのエンドーサーになったのです。そのときに撮影したのが、この写真です。
来日公演時もビルと連絡を取り「スネア・ワイヤーの予備を持って行こうか?」との質問に、「DRをお願い!」という即答をもらいました。本人曰く「気に入ったものは、ずっと使うタイプの人間」だそうで、一番最初に渡したプロトタイプのヴィンテージ・スネア・ワイヤーもまだ持っているそうです。
今回、ビルと会いたかった一番の大きな理由は、20年前に製作を誓った1950年代のグレッチのレプリカ(スネア・ドラム)を彼に見てもらいたかったからです。
このシェルは、当時使われていたシェル製造マシンを再生し、当時のスペックをほぼ再現した“こだわりのシェル”です。そこにカノウプスの最新テクノロジーを盛り込んだ“エッジ・シェイプ”を施した自信作です。
そして、ネオ・ヴィンテージNV50-M1スネア・ドラムを試奏していただきました。
ビルは、さまざまなチューニングで試してくれた結果、「非常にクオリティが高い」、「ヴィンテージよりもヴィンテージらしい」との評価をくれました。ビルは、1950年代はもとより、ヴィンテージ楽器をよ〜く知っています。予想以上の高評価に感激でした!
自分のスタイルを確立しながらも、常に進化を続けるドラマー、ビル・スチュワート。その先進のプレイは、ヴィンテージ・ドラムの持つ質感、音色とのマッチングによってさらに深化します。今後も目が離せませんね!