カノウプスは南半球の空に輝く星の名前で、日本からはまれに見ることができるシリウスについで2番目に明るい赤く見える星です。中国では老人星とよばれ昔の都洛陽・長安などからは、南のはて低くに非常にまれに見える星でした。南をめでたい方角としていたので、カノウプスをめでたい星として敬って、社を建てて祭り、老人星が見えた年は国家安泰、見えない年は戦争が起きると信じていました。めったに見ることができないこの星を見ると長生きができる、老人にとってはめでたい星だというので老人星と名づけられました。一方で漁師にとっては冬のさなか、南の空の水平線近く、みなれない異常に大きな星があらわれることがあると、海がしけてくるから船を出してはならないという言い伝えがあります。転じてこの星を見ることが出来れば災いをさけることができると信じられてきました。これらの伝説に肖り、「ドラムメーカーとして希有のブランドであり、ドラマーに幸福をもたらし、真のブランドメーカーとして長寿でありたい」という願いから“カノウプス”と名付けました。
ドラマーにとって理想のドラムの音とは何でしょうか? ドラム開発において、当初私たちは、「現代のレコーディングされた音」、言い換えれば「イコライジングされた音」の具現化というテーマのもとに、各ドラムのサイズごとのシェル・コンストラクションからもサウンド・コントロールを考えた“R.F.M.(レインフォースメント・メイプル)”の開発をいたしました。
ベアリング・エッジ形状を追求する上で、理論上1/100mm単位までコントロール可能な技術を構築したのもこの時期です。
そしてR.F.M.のモニタリングの結果、ロック・ユーザーの中には、「もっとラフ」で、「よりストレートな音飛び」のするサウンドを好む傾向があり、さらなるバリエーションの必要性を感じ“Birch(バーチ/BR)”を開発しました。
この2機種で概ねドラマーのニーズに応えられるのではないかという思いでいました。
しかし、これらのドラムの完成後も様々なドラマーから、過去(1960s、1970s)のレコーディング時のドラムの音について言及されることが多いことに気づき、「理想の音とは単にイコライジングしコントロールされた音だけではない」という結論に達したのです。そして私たちが次に開発を試みたのは、「頭の中で美化されたヴィンテージ・サウンドの再現」です。
“NEO-Vintage(ネオ・ヴィンテージ)”と冠したこのシリーズでは、文字通り「60年代にジャズ界を席巻したドラム・サウンドの再現」という開発理念のもと、“NV60-M1”を完成させました。そしてシリーズ第二弾の「60年代ロック界を風靡したドラム・サウンドを再現」した“NV60-M2”の完成へと続きます。コンセプト・ドラムとも言えるそのサウンドは、ヴィンテージ・ドラムの「くせ」までも再現しているため、非常に「好き嫌い」のはっきり出る個性的なシリーズとなっています。“NV60-M1”には、その「くせ」を嫌うプレイヤー向けに、シェルのポテンシャルを最も高めたエッジ・シェイプを施した“EX”も設定しました。
また、米国ROCKET SHELLS社との共同開発によるラウド・シーンで求められる爆音を発するカーボン・ファイバー・シェルや、ブロック工法による厚胴ドラム等の開発もしてまいりました。
さらに、カノウプス・サウンドをもっと手頃な価格で手に入れたいという要望のもと、“Japanese Sword series”の開発に着手した結果、中級モデルの価格帯でありながら、ポップ界のキング、スティーヴィー・ワンダーや、ジャズ界の大御所、ケニー・ワシントン、マルチ・プレイヤー、エスペランサ・スポルディングのバンドで活躍するジャスティン・タイソンが、高級ハイエンド・モデルと同等に愛用しています。
1. High Standard series | 私達が提案する理想のドラムの音の具現化 (R.F.M、BR、AH、MH) |
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2. NEO-Vintage series | 頭の中で美化されたビンテージドラムサウンドの再現 (NV) |
3. Custom series | 音のみに拘らずルックスや材質にドラムとしての可能性 を追求し、近未来のドラムのあり方に対する探求 (Stave、アクリルドラム) |
4. Japanese Sword series | ハイクオリティーサウンドはそのままに、コストパフォーマ ンスを実現 |
5. Type-R series | ロックに特化したサウンドの探究 |
冒頭で述べたように、私たちのドラム開発のコンセプトは、「耳に心地良い音」であることが大前提でした。10テンション・スネア・ドラムが高級品の代名詞である中、あえて8テンションのスネア・ドラムに固執し、ドラム・シェル自体の胴鳴りを引き出しました。また、フィニッシュに関しても、経年変化によるラッカーのクラック(ひび割れに似た縮み)のリスクがあっても木材の胴鳴りを優先し、アクリルやポリエステル材を使わず、ヴィンテージ・ギターに使われてきた、大変手間のかかる“ニトロセルロース・ラッカー”を採用しました。その結果、PAを使わないシチュエーションが多い、生音を重視するジャズ・プレイヤーから圧倒的な支持を受けてまいりました。
耳に心地良い音とは、中低域が豊かな周波数を発しているということですが、最近の音楽、特にロックに関してはより「過激な音色と音量」になってきています。
それらは、私たちが追求してきた音色とは「相反するもの」であることは事実です。しかし現在は、かつて物作りの世界が職人による手作業から、合理的な工法へと移行していったように、または天然材を生かした製品がケミカル素材に取って代わっていったように、ドラムのフィニッシュには、手間とコストのかかるニトロセルロース・ラッカーに代わり、若干シェルの鳴りを抑えてしまっても、丈夫で安価に仕上がるアクリルやポリエステルが主流になっています。しかし一方で、最近の音楽に要求される「芯の硬さ」と「音飛び」という特質も併せ持っていたことも事実です。また、車を例にとってみてもレースのためにスポーツカーが開発されたように、ドラムも音楽の特性に従って、より特化した音色の出るものがプレイヤーから望まれています。これらの視点に立ち、ジャズの対極にあるロックのサウンドに特化したドラムの開発が、私たちの次なる課題となったのです。
これらの開発過程の中で、カノウプスのドラム開発には5つの方向性があることを自ら見出す結果となりました。