説明
従来の欠点を排除した新生シングルヘッドタム
シングルヘッドタム(メロディックタム)は、通常のダブルヘッドタムのボトムヘッドを取り外して使われたのを発端に、主に1970年代に一世を風靡したことで知られています。明確なアタックと音程感が得られる反面、特有のビビリ感やサスティーンの短さが欠点で、実用上はミュートやエフェクト処理などでそれをカバーしてきました。カノウプスではシングルヘッドタムの開発にあたり、ダブルヘッドタムと同様にシェルの上下にレインフォースメント(RF)を施し、なおかつ下部のRFのみに厚みを持たせて全体の質量バランスを整理。シェル内の空気の流れを考慮したRF形状も導き出しました。その結果、これまで犠牲となっていたサスティーンを蘇らせ、ビビリ感を排除した新生シングルヘッドタムが完成したのです。シングルヘッドタムに興味はあっても、その欠点から使用することを躊躇していたドラマーにはぜひ試していただきたいアイテムです。
シングルヘッド用シェルの考察
一般的に物を安定して振動させるためには均等な構造の物体が全体で振動しなければなりません。ダブルヘッドの場合、打面から与えられた力はシェルに貯えられ、ヘッドと共振、共鳴し循環しながらサスティーンとして減衰していきます。トップのヘッドは、ボトムのヘッドと空気を介在することにより互いに抑制し合いながら共振、バランス良く振動するのです。つまり、ボトムヘッドは時としてトップヘッドの無駄な動きを抑制するいわばミュートのような役割を果たし、シングルヘッドのドラムで生じるようなヘッドのビビリ感の発生を抑制する役割があるのです。(A)
しかし、シングルヘッドの場合、構造上均等なドラムをわざわざバランスを崩して使用しています。一方は、シェルをヘッドと金属製のフープでしっかり固定し、質量のあるラグまで付いています。反対側は、固定もしていないし、ラグ等の金具は付いていません。従って、胴全体が一体となって振動せず、それぞれが自由に振動してしまい、個々の振動が噛み合わず、ビビり音として現れるのです。また、それぞれが自由に動いてしまうため、振動が打ち消し合ってしまい、サスティーンも失われてしまうのです。(B)
我々は、まずレインフォースメント(RF)のないシェルでの実験をしてみました。結果は、従来のメロタム同様、アタックの強いサウンドになりましたが、ビビリ音が発生、そこからビビリ感を取り除くため、エッジを調整していくと、「使いやすいメロタム」にはなるのですが、我々の納得できるサウンドは得られませんでした。また、このシェルでは「ふくよか」なサウンドを得ることができません。そこで、薄めのRF付シェルを採用し、当社のダブルヘッドのような ふくよかな音を実現しました。
RF付シェルでもBのように振動がバラバラに起きてしまう現象が起こってしまい、上記の問題を解決することはできません。そこで下部のRFだけに厚みを持たせヘッドとラグの質量分を補いシェルの上下に仮想のバランスを作り、あたかもダブルヘッドシェルのごときシェルの上下バランスを持たせることにしました。結果、シェル下部はしっかり固定され、ヘッドに与えられたエネルギーは質量を持った下部のRFの働きでボディーに貯えられ、エネルギーはまた上部のシングルヘッドの振動エネルギーとして循環してゆきます。また、質量を持たせるために厚くなったRFが障害物となり気流に抵抗を与えヘッドの暴れも抑制することができます。(C)
しかし、同時に「障害物」(RF)は、音のツマリやサスティーンを短くすると言う問題を生じさせてしまいます。この問題を解消し、サウンドのバランスをとる為、下部のRF内部に角度を持たせ、気流が適度に流れるように調整しました。(D)
「バランスの悪い構造のシングルヘッドタムは、バランスを崩したシェルスペックを製作することによりし、相殺してしまう」ーこれが我々の理屈です。
結果としてアタックと音程感を維持しつつもヘッドのビビリ感を排除し、十分なサスティーンを実現した「カノウプス・シングルヘッドタム」が完成したのです。
音色、響の厚みがダブルヘッドタム相当を可能に
「昨年4月よりThe Orchestra Japanにて初めて使用させて頂いております。クラシックのみならず映画音楽、Popsなど幅広いジャンルの公演が主ですが、クラシックのシンフォニーオーケストラとしてサウンドを創っております当団のパーカッションセクションにおいて、コンサートTomの扱い、音色、楽器の選定は大変重要なものでした。必ずと言って良いほど全ての公演で使用しております。まず、選定からダブルヘッドトムではなくシングルを希望したこと。これはCanopusのシングルヘッドタムは音色、響の厚みがダブルヘッドタムに相当するほどの音色を可能にしているからです。実際演奏していてもその効果は明らかであり「音の伸び」「胴の鳴り」「響」については感動的です。また「音程」が非常に良くクリアに表現されること。普通は8インチのサイズになると音程や音色の厚みは妥協する部分がありますが、全サイズ通して8インチまで、音の伸びが変わらず、胴の鳴りが非常に良いこと。ダブルヘッドタムに近い音色、響のふくよかさが表現され、シングルヘッドで充分という印象。扱いもしやすく機能性も兼ねています。
また、我々はシンフォニーオーケストラですが、そのオーケストラのサウンドにもよく溶け込み、深さがあり、他のオーケストラパーカッションとのコンビネーションも自然なサウンド創りが出来ています。ティンパニとのコンビネーションで使用することもありますがこれも違和感なく溶け込んでいます。今後も幅広く使用してまいりたいと思います。」
THE ORCHESTRA JAPAN 首席パーカッション安江佐和子
The Orchestra Japan