Concert Toms

コンサート タム

従来の欠点を排除した新生シングルヘッドタム。

シングルヘッド用ドラムシェルの考察

一般的に物を安定して振動させる為には均等な構造の物体が全体で振動しなければなりません。ダブルヘッドの場合、打面から与えられた力はシェルに貯えられ、ヘッドと共振、共鳴し循環しながらサスティーンとして減衰して行きます。トップのヘッドは、ボトムのヘッドと空気を介在する事により互いに抑制しあいながら共振、バランス良く振動するのです。つまり、ボトムヘッドは時としてトップヘッドの無駄な動きを抑制するいわばミュートのような役割を果たし、シングルヘッドのドラムで生じるようなヘッドのビビリ感の発生を抑制する役割があるのです。(fig.A)
しかし、シングルヘッドの場合、構造上均等なドラムをわざわざバランスを崩して使用しています。一方は、シェルをヘッドと金属製のフープでしっかり固定し、質量のあるラグまで付いています。反対側は、固定もしていないし、ラグ等の金具は付いていません。従って、胴全体が一体となって振動せず、それぞれが自由に振動してしまい、個々の振動が噛み合わず、ビビり音として現れるのです。また、それぞれが自由に動いてしまうため、振動が打ち消し合ってしまい、サスティーンも失われてしまうのです。(fig.B)
私達は、まずレインフォースメント (RF) のないシェルでの実験をしてみました。結果は、従来のシングルヘッドタム同様、アタックの強いサウンドになりましたが、ビビリ音が発生、そこからビビリ感を取り除く為、エッジを調整していくと、「使いやすいシングルヘッドタム」にはなるのですが、我々の納得出来るサウンドは得られませんでした。また、このシェルでは「ふくよか」なサウンドを得る事ができません。そこで、薄めのRF付シェルを採用し、当社のダブルヘッドタムに近い、ふくよかな音を実現しました。
RF付シェルでもBのように振動がバラバラに起きてしまう現象が起ってしまい、上記の問題を解決する事はできません。そこで下部のRFだけに厚みを持たせヘッドとラグの質量分を補いシェルの上下に仮想のバランスを作り、あたかもダブルヘッドシェルのごとき シェルの上下バランスを持たせる事にしました。結果、シェル下部はしっかり固定され、ヘッドに与えられたエネルギーは質量をもった下部のRFの働きでボディーに貯えられ、エネルギーはまた上部のシングルヘッドの振動エネルギーとして循環してゆきます。また、質量を持たせるために厚くなったRFが障害物となり気流に抵抗を与えヘッドの暴れも抑制する事ができます。(fig.C)
しかし、同時に「障害物」(RF) は、音のツマリやサスティーンを短くすると言う問題を生じさせる場合があります。この問題を解消し、サウンドのバランスをとる為、下部のRF内部に角度を持たせ、気流が適度に流れるように調整します。(fig.D)
「バランスの悪い構造のシングルヘッドタムは、バランスを崩したシェルスペックを製作する事によりし、相殺してしまう。」これが私達の理屈です。
両面ヘッドタムの様な深みを残しつつシングルヘッドならではのドライで明確なピッチ感を有するカノウプス コンサート タムは、音楽表現の可能性を広げます。


音色、響の厚みがダブルヘッドタム相当を可能に。

昨年4月よりThe Orchestra Japanにて初めて使用させて頂いております。クラシックのみならず映画音楽、Popsなど幅広いジャンルの公演が主ですが、クラシックのシンフォニーオーケストラとしてサウンドを創っております当団のパーカッションセクションにおいて、コンサートTomの扱い、音色、楽器の選定は大変重要 なものでした。必ずと言って良いほど全ての公演で使用しております。まず、選定からダブルヘッドトムではなくシングルを希望したこと。これはCanopusのシングルヘッドタムは音色、響の厚みがダブルヘッドタムに相当するほどの音色を可能にしているからです。実際演奏していてもその効果は明らかであり「音の伸び」「胴の鳴り」「響」については感動的です。また「音程」が非常に良くクリアに表現されること。普通は8インチのサイズになると音程や音色の厚みは妥協する部分がありますが、全サイズ通して8インチまで、音の伸びが変わらず、胴の鳴りが非常に良いこと。ダブルヘッドタムに近い音色、響のふくよかさが表現され、シングルヘッドで充分という印象。扱いもしやすく機能性も兼ねています。
また、我々はシンフォニーオーケストラですが、そのオーケストラのサウンドにもよく溶け込み、深さがあり、他のオーケストラパーカッションとのコンビネーションも自然なサウンド創りが出来ています。ティンパニとのコンビネーションで使用することもありますがこれも違和感なく溶け込んでいます。今後も幅広く使用してまいりたいと思います。

安江佐和子
The Orchestra Japan 首席ティンパニ・パーカッション